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リビングへ続く戸は開けたまま。奥へ進むと、そこには真っ白な世界が広がっていた。テーブル、椅子、本棚。家具は白で統一されている。窓から差し込む日差しがその白に反射して眩しかった。
「もっと早く決断するべきだったな」
背後から声が。振り向くと、コーヒーカップと普通のグラスを持った幡ヶ谷が立っていた。何となく、グラスの方を渡されるなと感じた。
「暑かったろう。飲むと良い。脱水症状が始まっているかもしれない」
俺を椅子に座らせ、グラスを差し出した。ほら、やっぱりこっちだ。中身は水。しかし冷えていて美味しい。キッチンを見るとそこには浄水器が。あそこから汲んだ水か。妙な臭みが無い。
幡ヶ谷も向かい側の席に腰掛け、カップの中の液体を飲んだ。
「いつも鍵はかけないのか?」
「下に客が来たら開けるんだ。インターホンの音は嫌いでね。僕を急かしているように感じる」
彼の感覚は自分達のそれとは若干異なっているようだ。連載を持った作家なら、もしかしたら同じような感情を抱くかもしれない。
「それで、あれは?」
「あれ?」
「何のためにここに来たんだ瀬川? 昇進のためにここに来たのだろう?」
「ああ、そうか。……いや、別に昇進は狙ってない。ただ、直感が」
そう言うと幡ヶ谷は笑った。カップをテーブルの隅にやった。早く寄越せということか。自分も急かしているではないか。
「インターホンも家主に似るんだな。ほら」
「何を言っているのかわからないな。どうも」
俺が撮った写真1枚1枚を眉間に皺を寄せて観察する。気に入らない撮り方だったのか。だったらはじめに言えば良かったのに。
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