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PROLOGUE
ある日、俺は幡ヶ谷に呼ばれてヤツの部屋にあがった。向こうから誘ってくるとは珍しい。今日も鍵は開けっ放しだった。
「いきなり何だよ」
「やあ。これを渡したくてね」
部屋にあがるとまずあの白い椅子に座らされた。待っていると、幡ヶ谷がやや大きめの箱を持ってやって来た。先日旅行に行ったので、そこで土産を買ってきてくれたのだという。
「本当に珍しいな、土産なんて」
「まあ、土産を渡す相手なんてそういなかったからね」
思わず吹き出した。視線を上げるとヤツが睨んでいた。
「すまん。帰ったらいただくよ。……ん? 用件って、これだけか?」
「そうだな、メインの用事はこれで終了だ」
だったらわざわざ呼ばないでもらいたい。俺も刑事だ、いつ招集がかけられるかわからない。推理小説オタクなら警察がいかに忙しいかわかるだろうに。
それはそれとして、この土産はありがたい。忘れないようにバッグの横に置いた。
「メインってことは、他にも用事があるのか」
「ああ。だがこれはそれほど重要ではない。帰りたかったら帰れば良い」
「いや、いいよ。言えよ」
「……わかった」
幡ヶ谷が俺の向かい側の席に座った。
「これは、土産話だ」
「土産話?」
「ああ。旅先で、こんなことがあってね」
と、嬉しそうに笑みを浮かべて、目の前の男は語り始めた。
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