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「あの……」  陽子に近づいて話しかけると、相手は舌打ちをしただけで返事をしなかった。向こうが指定してきた時間に来たのに、この態度は何なのだろう。  もう1度、今度は声を大きくして呼びかけると、相手は漸く言葉を発した。 「何なのよ、うるさいわね!」 「うるさいって、指定したのはそっちでしょうが!」 「何なのあんた? アタシ知らないわよ!」  頭に来たので、黙って警察手帳を見せてやった。陽子はサングラスを外してじっと手帳を観察すると再び話しだした。 「警察? 何で警察が来るのよ」 「は? こっちはちゃんとアポは取りましたけど」 「ちっ、西条ね。連絡等は全部彼に任せておりますの」 「秘書の方ですか」  連絡はきちんと伝わっていなかったらしい。その秘書が出来ない人間なのか、はたまたこの女が他人の話を聞いていないだけなのか。あまり良い印象を受けない人物なので、個人的には後者の方が良い。悪口を言いやすい。
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