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 その夜。  安城家の長女、陽子が屋敷に帰ってきた。住宅街の中にそびえ立つ、2階建ての大きな邸宅。堅牢な門と高い柵が、庶民との境界線のようにも思える。中には庭があり、小さな池もある。  玄関の辺りには大きなライトが設置されている。陽子はこれがあまり好きではなかった。夏になると虫が群がるからだ。それ以上に、父親の趣味だということが余計に気に食わなかった。  父親は厳しい人間だった。礼儀作法も厳しくしつけられ、学校のテストでも常に1位を取らなければ陽子を認めようともしなかった。安城家の人間たる者、それ相応の知識と教養が必要。それが武史氏のモットーだった。執事も現在の西条になるまでに何人も変わっている。当然、シェフもだ。最終的に小西がシェフに決まったのは、美味い料理を作ることが出来、口答えもせず、ただひたすら武史に従順な男だったからだ。  鍵を開けて扉を開けると、玄関で待機していた西条がお辞儀した。今日の陽子はご乱心で、帰るや否や西条にヴィトンのバッグを叩き付け、更に罵倒した。 「あのクソ野郎! 警察にちくりやがった!」  この口調の通り、武史氏の教育は彼女にはしっかりと浸透していなかったようだ。 「落ち着いてくださいお嬢様」 「この状況で落ち着いていられると思う? 早くどうにかしないとアタシの名声がぁっ!」 「たとえ警察が事件の片鱗を発見したとしても、彼等は殺しがあったことを立証することは出来ません」
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