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 そう、瀬川達の読みは大体当たっていたのだ。確かにこの屋敷で殺しがあった。死んだのは父親、安城武史だ。  西条の言葉を聞くと、陽子はやっと落ち着きを取り戻した。かと思うと、今度はケタケタ笑い始めた。目の焦点があっておらず、不気味な顔になっている。  この事件を警察は立件することが出来ない。何故なら、遺体も凶器も、見つけることは出来ない筈だから。 「ちょっと、お風呂に入ってくるわ」 「かしこまりました」  その場にコートを脱ぎ捨てると、陽子は屋敷の2階にある風呂場に向かった。普通の家のものよりも大きい浴場。ここはまだ陽子も気に入っていた。  風呂場で服を脱ごうとしたが、鏡を見て途中で手を止めた。  後ろに、あの男が立っている。死んだ筈の父親、安城武史が。武史は鋭い目つきで陽子の背中を睨みつけていたのだ。その目は真っ赤に充血し、頭部にも所々血管が浮いている。  勢い良く後ろを振り返ると、そこには誰もおらず、ただ闇が広がっているだけだった。そう、居る筈が無い。彼はもういない。間違いなく殺されたのだ。その様子も陽子は確認している。  これも性なのかもしれない。あんなことをしてしまった自分に課せられた罰の1つなのかもしれない。もう1度鏡を見ると、今度は別のことに気がついた。今の幻覚に比べればマシな方だが、女性の陽子にとっては喜べないものだった。 「……ニキビ」
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