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 おそらくそんな状況が嫌になったのだろう。昨晩小西はこのビルから飛び降り死亡した。襲われた形跡は無い。屋上に行って確認したが、きちんと揃えられた靴とキャリーバッグが見つかっている。これはもう自殺で決まりだ。 「自殺か。最近、何だか多い気がするな」  と坂口。空を見上げてそう呟く。何だか気持ち悪い。 「そうかもな」 「やっぱり景気の問題なのかなぁ」 「さぁな。でも、小西の場合はどうなんだ? 金持ちの家でシェフをやってたんだろう? だったら金には困らないだろ」 「ああ。収入はそこからしか入ってない」  絶大な人気を誇っていたが、たった1度の失態で名誉を剥奪され、金持ちを楽しませるだけの料理人になってしまった。俺達は「富豪に雇ってもらってるんだから良いことなのでは」と思うのだが、本人はそうではなかったのかもしれない。  今回はアイツの出番は無いだろう。一応いつもの品も持って来たが必要無さそうだ。ポケットの中のカメラを外から触っていると、後ろにいた鑑識課の捜査員が声を上げた。 「遺書、見つかりました!」  ピンセットで小さな正方形の塊を持ちながら、男はそう言った。どうやら何重にも折って靴の中にしまっておいたらしい。それを調べれば色々とわかってくるだろう。  次に、俺達はいつものように聞き込みを行った。ビルの中には居酒屋やクラブが幾つも入っている。それぞれの店員に聞いてみたが、小西はいずれの店にも来たことが無いという。取り敢えず死に場所を探していて、最も身近にあったのがここだった、ということか。
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