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 それから1週間後。俺は出来る限り多く情報を集めて友人・幡ヶ谷康介の家に足を運んだ。  自分で調べたものの他に、坂口が集めてきたものも持って来た。彼に頼んで色々と資料を集めてもらったのだ。これらの資料の使い道について詮索されるのではないかと不安だったが、彼は聞き込みで更に疲れが溜まり、これ以上俺に協力する気は無さそうだった。多分幡ヶ谷のことも知られずに済むだろう。  やはり今日も鍵は開いている。俺が来たのがわかってから開けていると本人は言うが、果たして本当だろうか。非常に怪しいものだ。 「やぁ」 「わざわざ悪いな、時間作ってもらって」 「構わない」  先程までパソコンをいじっていたようだ。翻訳の仕事をしていたのだろう。あの奇妙な文字がよくスラスラと読めるものだ。俺も英語はそこそこ出来た方だが、幡ヶ谷に比べれば下の下だ。推理小説を片っ端から読みたいという欲望が、彼に驚異的な翻訳能力を与えたのかもしれない。  幡ヶ谷は椅子に腰掛けると手を出して例のものを催促してきた。今日は水も出て来ない。客人よりも事件の方がコイツにとって重要なのだ。 「はいはい」  殺人の確証は得られなかったが、色々と彼について知ることは出来た。まず、彼が通っていた家は全部で6件。全部都内だった。しかし殆どの家が僅か1、2ヶ月で契約を解除していた。雇い主との関係が悪化してしまったのだろうか。  それから料亭の関係者の方だが、特に大きなトラブルは無かったようで、死者も出ていなかった。関係者については殆ど坂口に任せてしまった。  坂口から得た情報によると、彼の弟子は今都内に自分の店を構えている。その弟子も小西のことは悪く言っていなかった。しかも彼は店を出す直前、小西から料理道具一式を貰ったと言うのだ。中には古くなって使えなくなった物もあったらしいが、彼は本当に嬉しかったと答えたそうだ。
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