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 本人直筆の遺言を睨みつける幡ヶ谷。確かにあの文章だけで殺人があったと決めつけるのも無茶なのかもしれない。 「なるほどな」 「まぁ小西の思い込みかもしれないけど、やっぱり気になってな」 「どの道調べるには、その厄介な連中から話を聞き出す必要があるな。1番最後に彼を雇っていた家は何処だ?」 「それなら、えーっと……ああ、この安城って家だ」 「ほう、あそこか」  安城家。名前は聞いたことがある。確か主人の安城武史氏が貿易関連の仕事をしていたとか。娘の陽子はファッション業界ではかなりの有名人らしい。モデルではなく、服のデザインを考える側だそうだ。その辺の話は坂口から聞いた。アイツは世間的な話題に関しては詳しいのだ。  勿論幡ヶ谷も知っていた。怪しい噂もあったと教えてくれた。何でも新聞記者の知り合いが話してくれたのだとか。 「どうにかして時間を作れ。何なら僕も……」 「いや、お前それはまずいよ」 「何、僕の名前を知っている人間などそういない」 「そういう問題じゃねぇよ。俺の身にもなってくれよ。シャーロックホームズじゃないんだからさ」 「大丈夫だ。バレなければ良い」 「お前、調子に乗ってるだろ」 「君も相変わらず失礼だな。こっちは至って真剣だ。まぁ良い、止そう。兎に角必ず、必ずアポを取れ。でなければこの捜査は破綻だ」  難しい約束だ。一応「わかった」とだけ返事をして部屋から出て行った。  刑事になって10年以上経った。こんなヒヤヒヤする捜査をすることになるとは、あの頃はまだ考えもしなかった。同窓会で幡ヶ谷に出会ってから、俺の人生は変わってしまった。運命というのは残酷で、本当に読めないものである。
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