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 その日の午後、俺は幡ヶ谷宅に足を運んだ。電話で要件を伝えるとすぐに許可してくれた。彼の本職は翻訳家だが、英文の翻訳よりも事件の方が彼にとっては重要なことなのだ。  いつものように部屋の鍵は開いている。靴を脱いでリビングに向かうと、腕を組んでパソコンの画面を見つめている幡ヶ谷の姿が見えた。俺が来たことには気づいていたようで、画面から目を離さずテーブルの方を指差した。そちらを見ると、コップに入った水が置かれていた。 「偶にはコーヒーとか出してくれても良いんじゃないか?」 「何を言っているんだ君は」  と、幡ヶ谷は目線をパソコンから俺に移した。 「コーヒーや紅茶はあくまで僕の趣向品だ。君に僕の趣味を侵害されたくない」 「相変わらずくだらないことを」 「早く本題に入れ。頼んで来たのは君の方だろう?」  顔面を殴ってやりたかったが、今回は確かにコイツの力が必要だ。黙って撮影した写真とレコーダー、それから捜査資料をバッグから取り出して手渡した。資料はいつもより少ない。あまり目立った行動はしたくなかった。疋田に目をつけられる懸念があったからだ。
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