PROLOGUE

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 思わず由美の身体を押しのける。が、彼女は何も言わない。小さな悲鳴すらあげない。ドアの脇に取り付けられたライトが彼女の顔を照らす。血の気が無く、唇は紫色に変色している。口元からは血が垂れていた。歯か何かで口の中を切ったのかもしれない。首には緑色のロープが巻き付いている。先程触れた紐はこれだったようだ。  身体が竦んでその場から動けずにいる隆俊。物音に気づいた隣室の老婆がドアを開けて様子を窺った。 「あっ」 「い、いや……嫌あっ、人殺しぃっ!」  大声を上げる老婆。その声を聞いて他の住人達も次々に部屋から顔を覗かせた。皆口々に何か言っている。雨が強いため全てを正確に聞き取るのは難しかったが、隆俊の耳には「殺し」「犯人」「警察」という言葉だけはハッキリと聞こえた。 「ちっ、違う! 俺じゃない! 俺じゃないって!」  状況を察知して逃げ出そうとする。だが他の住人達の手により彼は捕らえられてしまった。  その数分後、アパートに警察が到着、隆俊は容疑者として署に連行された。  パトカーに乗せられる最後のときまで、彼はずっと無実を訴え続けていた。
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