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 取り調べの様子を見つめていると、そこへ同僚の坂口栄志が入って来た。目が充血している。彼も就寝時間を削って仕事にあたっていた。 「みんな必死だな」  と俺が呟くと、坂口が口を開いた。 「鑑識の話じゃ、確固たる証拠が掴めなかったらしいからな」 「え?」 「犯行に使用されたのは確かにあのロープだった。繊維片が首にくっついてたからな。木村の指紋もとれた」 「じゃあ何で?」 「残っていた指紋の形と場所だよ。あの持ち方じゃ、被害者の首は絞められないそうだ」  指紋が採取されたのはロープの端。しかも握った形ではなかったらしい。なるほど、それなら木村が犯人である可能性は薄くなる。これが自作自演なら少々間抜けだ。  だが坂口の話からすれば、今取り調べをしている警察官達はこのことを知っている筈。それなのに何故まだこんな取り調べを続けているのだろう。まさか、この男を犯人に仕立て上げて早いうちに事件を終わらせるつもりなのか?  休憩のため疋田が取調室から出て行く。俺はそのあとを追って疋田を呼び止めた。結局俺も親父の、1人の刑事の息子だ。多分親父も同じ様なことをしただろう。
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