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「疋田さん」  ヤクザ顔負けの厳つい面で、疋田がゆっくりと振り返る。彼も何時間も取り調べをしているため疲れているのだろう。 「何だ瀬川? 俺は忙しいんだが」 「アイツがやったっていう確実な証拠、出なかったそうで」  そう言うと疋田は舌打ちをした。やはり知っていたようだ。知っていながら、木村を問いつめていたのだ。 「これ、下手したら冤罪になるんじゃないですか?」 「うるさい。お前はお前の仕事をしてろ。アイツが犯人なのは間違いないんだ」 「何故わかるんです?」 「ヤツは被害者と交友関係にあった。アイツはダチを殺したと電話してきた。多分喧嘩でもして誤って殺しちまったんだろ。間違いねぇ」 「それだけで判断するのはどうかと思いますが」  昨晩は雨が降っていて、その音で通報者の声もハッキリとは聞き取れなかったらしい。今疋田が述べたのも全て彼の想像。証拠が無い。これでは何の解決にもなっていない。  俺が問いつめると、疋田はいきなり胸ぐらを掴んで来た。こちらも負けじとガンを飛ばす。 「親父が警察のお偉いさんだったからって、ちょっと調子に乗ってんじゃねぇか?」 「警察のためを思って言っているのですが」 「ああ?」 「もしこれが冤罪だったら、警察はまた叩かれることになりますよ。あなたの首だって飛ぶかもしれない」  流石の疋田もペナルティを恐れているようで、胸ぐらを掴む手の力が少し緩んだ。目も泳いでいる。
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