クレヨン

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「クレヨン」 幼い私はクレヨンで色を納めていく 黒い線が描かれただけの 白い塗り絵の冊子を目の前に そこに決まっていると言われた色を そこにあるべきはずだと言われた色を AにはBを BにはCを 塗りなさい 塗りなさい しかしいつの間にか AがBであるのか BはCであるのか 何も信じられなくなった 信じられないのではない 認めたくなかったのだ 誰かが決めた塗り絵の方程式に 私は私を塗りつぶしたくなった このままじゃいけない AがAに見える 私が私に見えてしまう 他人にしか知らない私に そんな私に私はなってしまうのだ そうしているうちに 誰とも会いたくなくなったのだ 私はついクレヨンを何処かへ隠してしまった すると後に残ったものは 何もついていない 真っ白い塗り絵の冊子だけだった そして誰かと話す言葉を失ってゆく ある日誰かが 子供は無邪気でいいと言った しかし子供達は 科学者や数学者のように 目に見えぬ方程式を知っていたのだ どうすればすぐに 塗り絵を完成させられるかを 知っていたのだ そしていつか自分に迷って 子供を辞めたいと言った私は 実は子供でもなかったようだ 身長はもう伸びない歳になっていた
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