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銀次郎は小さな月神獣を抱き上げる。子供の手の中でもすっぽり入ってしまいそうなほど小さな生き物は、大人しく、暴れることもなかった。
「いいこと考えた!」
銀次郎は、自身のひらめきがすごいと確信したのか、ニッと笑みを浮かべた。
「秘密基地にかくして飼おうぜ!」
「秘密基地……神社の裏側の?」
銀次郎の家の近くにある小山には月宮神社があり、その近くにある雑木林に秘密基地を作っていた。航聖はときどき遊んでいたそこを思い浮かべた。
「そうじゃないよ」
と、銀次郎は大きく息を吸って、「この近くに新しく秘密基地を作るのさ。第2基地」
「……うーん」
またも航聖はうなった。
銀次郎はさらに勢いよく言葉を重ねる。
「それに、親が死んでいるんなら、この子はいずれ死んじゃうじゃないか。今日から、おれたちが親がわりさ!」
「うん……わかったよ」
航聖は銀次郎の勢いにうなずいてしまう。
どうやって育てていくか、という現実的な点に考えが及ばなかったのは、心のどこかで真剣に考えているわけではなく、遊びの延長という感覚でいたせいだった。秘密基地という男児特有の発想もそこからきていた。
「そうと決まれば……」
月神獣を抱くようにして、銀次郎は意気揚々と歩き出す。
航聖はそのあとをついていく。
「どこに基地を作るんだい?」
「この近くでいいんじゃないか」
「だめだよ。ここは入っちゃいけないところなんだから」
「だからよけいに都合がいいんじゃないか。だれも来ないなら、見つかりにくいじゃん」
「でも……」
自分たちがこの立入禁止区域に入っていることが大人たちにばれてしまったら、もうここには来れなくなる。それを航聖は心配した。
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