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だが銀次郎はあまり本気で心配していない。航聖ほど、月神人の掟をリアルに感じていないのだ。それはしかしやむを得ないともいえる。さっき航聖からかいつまんで聞いたばかりで、しかもそんな非現実的な話がすべて頭に入るわけがなかった。――月神獣という明らかな証拠を手にしてもなお、そんなものだった。
子供にとって、ファンタジーはわくわくするものであって、リアルな危険を伴うものでは決してないのである。
二人は少し歩いて山の北側へ回り込んでいった。あまり人が入らないことから、ますます草深くなっていた。鳥が運んできた木の種が勝手に発芽して、あちこちに木々が成長していた。藪には蚊も多く、虫よけのスプレーをふっていなかったら体じゅう刺されていたところだ。
「ここらなら、いいんじゃないか?」
銀次郎は、藪の間に空いた空間を見つけた。山の北側は、ぐるりと取り囲んだ道路が近かったが、藪や木々にさえぎられて、まったく見えない。
「うん、そうしよう」
航聖も同意した。
二人して、その近くから秘密基地の材料になりそうなものを集めてきた。といっても木の枝ぐらいしかなく、今日のところはそれで間に合わすことにした。
「明日になったら、もっと本格的にやろうぜ」
銀次郎は、葉のついた枝を重ねた、ゴリラの寝床みたいな秘密基地に満足していなかった。とりあえず夏の直射日光と雨露はしのげるといった程度だ。ここで長時間楽しく遊べるぐらいの秘密基地にしたい銀次郎だった。
「そうだ、航聖」
「なんだい?」
「月神獣って、なに食べるんだ?」
「え?」
「生きているんだから、エサぐらい食べるだろ?」
「それは……」
航聖でもそこまでは知らなかった。地球上の生命ではないのだから、なにを食べるかなんて想像すらできない。
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