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「お父さん、今日集会なんでしょ?」
と妻の直美が言った。
「ああ、わかってる」
「じゃ、明日はステーキにするわよ」
ショボい献立にがっかりしているのは勇樹だけではない。
「でもゆうべはそんなに月神獣が現れなかったからな。分け前は少ないかもしれないよ」
勇樹は昨夜の戦いを思い返して言った。
家族が楽しみにしているのは、牛肉でも豚肉でも鶏肉でもなかった。
月神獣の肉だ。月に一度の戦いで倒した月神獣はその場に放置せず、商店街の人々によって精肉店に運ばれ、解体される。精肉屋の主人によってまる一日かけて切り分けられた月神獣の肉は、その夜の集会で山分けにされるのが昔からの習慣だった。もちろん解体作業の当然の役得として精肉店の取り分は多く、一部は店頭で販売されていた。ただし、これも魔草同様大量に仕入れられるものではないので、店先に並ぶのはわずかな量だった。
味と食感は鶏肉にそっくりだった。しかも引き締まった肉質の高級地鶏に見かけも味も似ていた。昔から食べられてきたため、違和感もなく食卓に上がった。もっとも、一般に販売される際は、まさか月神獣の肉などと得体の知れない名前で売るわけにもいかず、違法を承知で「鶏肉」と偽装表示していた。
直美が配膳を終えて、全員で「いただきます」
夕食が始まった。いつもと変わらない日常。だが、いつもより静かだ。娘の理沙は中学生になってから急に口数が少なくなった。思春期の難しい年頃なのだと勇樹は想像するが、それがわかったからといって特別な態度で接することはなく、そんな必要があるとは思っていなかった。だいたい、そもそもそれができるほど器用ではなかった。
だが理沙はともかく、普段はよくしゃべる航聖までが今日は静かだ。いつもなら昼間の出来事を話してくれるのだが、魔草のことを聞くとなにかを考えているように口を閉ざした。
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