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毎回、月神獣との戦いの翌日には反省会が開かれていた。が、形骸化して、肉を配るのと戦いの労をねぎらう飲み会となっていた。集会所には小さなキッチンがあるのだが、そこに置かれた冷蔵庫には今日も缶ビールがぎっしり詰め込まれていることだろう。
娯楽の少ない田舎の常として、ここでも大人たちの最大の楽しみはアルコールだった。毎月徴収される自治会費の大半がこの飲み代に消えていることを、持ち回りで自治会役員を引き受けたときに勇樹は知り、自治会費をそんなことに使っていいものなのかと内心疑問には思ったものの、他に使い道がそうそうあるものでなし、そんな野暮なことを誰かの前で口に出したりはしなかった。
全員が揃った。戦いに参加した商店街の各家の代表二十人が集まったのである。自治会長が前に立つ。自治会長は、就任すると、自らが引退するまで何年も勤めることになっていた。若井畳店の主人が現自治会長になってから、そろそろ十年になろうとしていた。
「えー、みなさん。お疲れのところお集まりいただき、ご苦労さまでございます。昨日の防人ノ儀の反省会を執りおこないます」
月神獣との戦いのことは、「防人ノ儀」と古来より呼ばれていた。先祖代々、一般の人々に知られることなく何百年もの昔から続くこの戦いは、この商店街の人間だけに「使命」として受け継がれてきた。
「みなさん大きな怪我もなく、なによりでした」
と会長は皆をねぎらう。
勇樹は左手に巻いた包帯をさりげなく右手で覆い隠した。今回の月神獣は数も少なく大した魔力も持っていない小型のものばかりだった。そんな相手では倒すのも容易い。が、そんななかで唯一負傷したのが勇樹だった。軽傷で、病院へ行くほどの怪我ではなく、自前の漢方薬を処方しておいたのだが、周囲の勇樹を見る目は冷たかった。あの程度の月神獣相手になにやってんだ――。口にこそ出して言わないものの、役立たずのレッテルを貼り、しかもそのとおりの体たらくなのだから、もはや挽回のしようがなかった。
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