8月…月野町商店街

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 そんな勇樹の惨めな気持ちなぞ気づく様子もなく会長の発言はつづく。 「今日は、皆さんに一つ提案があります。みなさんもお気づきでしょうが、ここ十数年の月野町商店街の売り上げは下がる一方です。お客さんである町の人口が高齢化とともに減少しているのが原因です。他の地域なら廃業して引っ越すこともできますが、我々はそうはいきません。先祖代々からの土地を離れるわけにはいきません。先日、役員会でも話し合ったのですが、ここでひとつ町興しをしてみてはどうか、と。なにもしなければ、事態は好転しません。ここはぜひ、みなさんの知恵を貸してください」 「しかしそう言われてもなぁ……」  困惑した顔で言ったのは、高柳酒店の主人である。  皆お互い顔を見合わせ、突然の提案に戸惑っている。 「いきなりアイデアを出せと言っても無理ですから、次回の集会のときにまた訊ねます。どんなことでもけっこうです、なにか提案がありましたらお願いします」  若井会長は座を見回し、 「では大西さん、肉を配ってもらえますか」  ずんぐりした体型の中年男が大儀そうに立ち上がった。大西精肉店の主人である。部屋の隅に積み上げられた発泡スチロールの箱をひとつ両手に抱え、 「今回は獲物が少なかったので、一家族あたり三キロです。順番に受け取ってください」  皆ぞろぞろと立ち上がる。 「受け取られたかたからお帰りになってけっこうですが、このあといつものように慰労会をおこないますので、お時間のあるかたは参加してください」  と会長。余程の事情がない限り帰る者はいない。そんななか、勇樹だけが部屋を出た。下戸というわけではなかったが、居づらい雰囲気を感じて、いつもすぐに帰っていた。だれもなにも言わなかった。
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