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シロ。
それが、この子――月神獣(つきかみ)の名前だ。白い体だから、シロ。子供らしい、単純だがわかりやすく、親しみやすい発想だ。
翌日、鳥野航聖と野浦銀次郎は朝早くからここへ来ていた。
昨日のことはすべて幻ではなかったかと心配していたが、作ったばかりの秘密基地に来てみると、現実だったことにホッとする二人だった。月神獣はおとなしくそこにおり、逃げ出したりはしていなかった。
銀次郎は、秘密基地の材料にと、どこから調達してきたのか小ぎれいな板きれ(廃材だそうである)を何枚も自転車に積んできて、ちゃんとした秘密基地らしくすると言い、一方航聖は、月神獣のエサがなにかわかったので、これからそれを集めに行くと言い、それぞれ行動を開始した。
月読山と呼ばれる小山の頂上には祠があり、その祠の周囲は草が刈りとられ、広場となっていた。
満月の夜、その広場で繰り広げられる壮絶な戦闘を航聖はまだ知らない。父親から聞いた話は断片的で実際を見たこともなかったし、いずれは知ることになるだろうが、航聖はまだ十一歳だった。月神人(つきひと)としての能力が目覚めるのはもっと先のはずで、やがてはそのときが来るはずだと知識としては知ってはいても航聖にとってそれは具体的なイメージのわかないはるか先の未来だった。
初めて上ってきた山の頂上。真ん中には石造りの小さくて苔むした古そうな祠が不気味に立っており、父・勇樹の話に聞いたピンクの草は確かにところどころに生えていた。葉は長方形で分厚い。手で触ると、ぷにょぷにょとした弾力性があった。世界中探してもこんな形状の植物はなさそうで、まさしく異界の植物といえた。
ヤブ蚊が舞うなか、航聖は持ってきた鎌でピンクの草を刈り取っていく。全身にくまなくふった虫除けスプレーの隙をかいくぐって刺してやろうと近寄るヤブ蚊だったが、どういうわけか魔草のそばにいるとやってこなかった。
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