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朝とはいえすでに陽は高く、強烈な日光が暴力的な暑さをもたらしていた。ヤンキースの帽子との隙間から流れる汗を首からかけたタオルでふきつつ黙々と作業した。
蝉時雨のなか、ほんの三〇分ほどで持ってきたレジ袋はピンクの魔草でいっぱいになった。軍手がピンクに染まった。
これで足りるかどうかよくわからなかったが航聖は秘密基地へと引き上げた。
戻ってくると、秘密基地の様子はずいぶん変わっていた。
勝手に生えている木瓜の木を柱にしてベニヤ板で三角屋根ができていたし、床も板を張って靴を脱げるようにしてあった。壁も採光を考えて配しており、すべてを釘で固定してあった。
廃材を集めて作った素朴な秘密基地だったが、少年たちの目には、たとえ犬小屋より見劣りがしても魅力のある素晴らしいものに映った。
「すごいや」
と航聖は関心する。
へへへ、と得意そうな笑顔の銀次郎、
「ところで、シロのエサは?」
「これさ」
航聖はぱんぱんにふくらんだレジ袋を見せる。鮮やかなピンクが目に痛いほどだ。
「これが、魔草……」
初めて見る異界の植物は確かに浮世離れした印象を受けないでもないが、現実に目の前にあって差し出されると、この世ならざるものという感じは薄くなった。
「さっそくあげてみよう」
航聖は、秘密基地の板張りの床に敷かれた新聞紙の上でじっとしている月神獣の子供の前に、ひとつかみの魔草をおいてみた。
すると、鼻先を魔草によせて匂いを嗅いだ。そして猛烈に食べ始めた。
よほどお腹がすいていたとみえた。
「ほら、どんどん食べなよ」
航聖はレジ袋の中身を全部出した。
ガツガツと魔草を食べるシロを見ていると、なんだかすごく幸せな感じがする二人だった。いつまでもこうして見ていたい……。
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