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翌日、朝から自転車に乗って、航聖は銀次郎の家に向かった。自転車で二十分ほどの距離にある神社の近く、古くからの村落のなかに銀次郎の家はあった。
一面、田んぼがつづく農道を行くと、前方に家々が固まっている集落が見えてくる。それら古くからの家々は、高い塀で囲まれ、内には白い壁の蔵が建っていたりして、まるで江戸時代かなにかにタイムスリップしたような歴史を感じさせる佇まいだった。
その一郭に、銀次郎の野浦家はあった。何度か遊びに行ったことがある航聖だったが、いつ来てもその家の広さに圧倒された。広いは広いが人間が日常生活を送っている場所は少しだと、銀次郎は、敷地内に自分が踏み込んだことのない場所が多いと言っていた。
航聖が銀次郎の家の前まで来ると、銀次郎はすでに門の外で待っていた。
「よし、行くか」
銀次郎も自転車にまたがる。今日も一日中遊びたおす予定で、弁当まで持って来ていた。
近くにあるという木工所へ行くと、銀次郎はそことは顔なじみのようで、遠慮もなく敷地内へと入っていった。航聖は勝手がわからず、銀次郎のあとを小さくなってついていった。
「おじさーん。今日も来たよー」
電動ノコギリの材木を切る音が響き渡るプレハブ工場の開けっ放しの開口部から、銀次郎は大声で呼びかけた。
すると――。
「おお、銀ちゃんか」
内で働いている数人の大人たち……のなかからひとり、ランニング姿の男の人がやってきた。うっすらとヒゲをはやし、日焼けした腕は太く、いかにも肉体労働者という見かけだが、荒くれといったふうではなく気のいいおじさんといった感じで、どうやらずっと以前からの知り合いのようである。
「また、廃材をもらっていい?」
「いいとも。あそこにあるやつならね」
と、軍手をした手で指さす先に、コンクリートブロックで囲まれた一画があった。
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