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☆
「おや、今日もおつかいかい?」
レジのおばちゃんにそう言われて、銀次郎は「まあ、そんなとこ」とほくそ笑む。
農協の朝市である。各農家から直接農協へと持ち寄られた野菜などが販売されている。
時刻は午前七時半。早朝といっていい時間だ。
ここでキャベツを買うのも何度目だろうか。毎回ここでキャベツばかり買うので、お好み焼きでも作るのかと聞かれたこともあった。
シロのエサにと、キャベツのほかにもブロッコリーやアスパラガスやモロヘイヤなんかも試してみたが、どれも食べてはくれず、結局キャベツばかり買うハメになってしまっているのである。
魔草は、生えている量が減ってきたのと刈り取るのが面倒ということもあってだんだん与えなくなり、代わりにキャベツが増えてきた。それでもシロはすくすく育ち、わずか数日で見た目にわかるほど大きくなっていった。
キャベツの代金を払い、秘密基地へと急ぐ。
朝市は銀次郎の家の近くの農協で開かれるため、キャベツを買うのはいつも銀次郎の役目だった。農道をつっきり、橋をわたり、航聖のいる月野町商店街へは二十分ほどだ。
月町商店街は、真ん中を県道が通り、道路の両側に十件ほどの商店が並ぶ。昔ながらの商店街だ。コンビニやファーストフードの店はなく、狭い歩道に面した各商店はすべて自宅を兼ねた店舗である。
じんわりと過疎化が進む田舎町のなんの特徴もない商店街だが、つぶれてしまった商店があってもおかしくないのにまだ閉店してしまった店はなく全部生き残っているのが特徴といえば特徴かもしれなかった。大型のスーパーマーケットの進出がないことも、その理由のひとつだろう。
航聖の鳥野薬局は、商店街の端から三軒目にある自宅兼店舗。
農協の朝市で買い物をした時間が早いから、銀次郎がやって来たとき、商店街はまだ眠っていて、開いている店はパン屋など、ほんの数店だった。
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