プロローグ

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 魔物は、全身を覆う短い体毛が逆立ったかと思うと、取り囲んでいる一人に向かって飛びかかっていった。  ――来た!  あらかじめ準備万端で待ちかまえていたので、あわてることはなかった。両手に持っていた大段平によって、一刀両断――と思いきや、魔物はさっとその刃をかわした。  速い。 「そっちへ行ったぞ!」  魔物は方向転換し、べつの人間に狙いを定めた。 「お、おう!」  彼は、接近してきた魔物に向かって手にした槍を突き出したが、魔物はその槍もかわした。槍を蹴って、空中高く跳んだ。  その魔物に向けて何人かが長剣を振るう。そのうちの一太刀がヒットし、魔物は地面に落下する。 「鳥野さん、なにをやってるんですか!」  若い男が、槍を踏み台にされた中年男を注意する。  祠からは、もう一頭、さらに一頭と魔物が飛び出してきた。  各自、戦闘が始まった。槍や刀を振るう者、ヌンチャクやトンファーを使う者、それぞれが得意とする武器で魔物と戦った。中には妖術で魔物と対する者もいた。  負けるわけにはいかない戦いだった。ここで魔物を食い止めなければ、地球に魔物がなだれ込み、壮絶なカオスとなるからである。  魔物には、通常の武器は通用しない。彼らがここで使用している武器にしても、普通の刀剣ではなかった。すべて魔物に有効な術を施して作られた特殊な武器で、使用する側も普通の人間とは違い、その武器を使いこなすための能力を有していた。  彼らは代々その能力を受け継ぎ、祠を守って戦ってきたのである。だがそれは決して歴史の表舞台には現れない何百年に及ぶ闇の秘史だった。  魔物たちの咆哮と人々の喊声が入り乱れ、月光とかがり火に照らし出された乱戦が繰り広げられた。それぞれが、己が能力を発揮し魔物と戦う様は、神代の昔――神話の世界の一場面のようだった。  筋骨逞しい男が段平で一頭の魔物を一薙ぎし、返り血を浴びながら叫ぶ。 「今夜はいつになく手強いぞ。態勢を維持して包囲を破られるな!」 「おう!」
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