8月…少年たちの秘密基地

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 店舗の横に細い路地があり、航聖の家の玄関はそこに面していた。路地へ入ると、航聖が待ってくれていた。 「おはよう!」  銀次郎は手をあげ、自転車を急停止する。前かごに入れていたキャベツがごろんと音をたてた。 「はい、これ」  航聖は握りしめていた小銭を銀次郎に手渡した。キャベツの代金はいつも折半だ。 「じゃ、行くか」  自転車をおいて、月読山へと分け入った。今日も楽しい一日が始まる。 「なあ、銀次郎――」  二人して歩きながら、航聖は声を低くした。 「あしたぐらいに台風が来そうだよ……」  今朝、天気予報を見ていたら、数日前の予想進路から外れ、もろに直撃しそうなのだった。台風が接近しそうだからと、今日は念のために秘密基地を補強しようということになっていたのだが、どこまでのことができるか不安になってくるのだった。  ただの基地ならもう一度作り直せばいいやと開き直れるが、今の秘密基地はシロが住む家でもあるのだ。風で吹き飛ばされないようにしたかった。  いつものように魔草とキャベツを与えると、すぐに補強工事に取りかかった。最初に持ってきたときに使わなかった板きれが基地の周囲に放置されていたから、材料はそれでまかなうことにした。  自生する木に針金で板をくくりつけ、釘で打ちつけ、考えられる限りの補強を施した。 「これでだいじょうぶだろう」  銀次郎は額の汗をぬぐう。風が吹きつけて汗で濡れたシャツが涼しいが、その風が心なしかいつもより強く感じられた。  どうやら本当に台風がやってきそうな気配である。台風が来るなどと想定していなかった事態にあたふたと準備したものの、所詮子供の工作の域を出ない故、あとはあまりひどい台風でないことを祈るのみだった。予報だと今日の夕方から明日の明け方まで台風の暴風圏内に入る。両親からも今日は早く帰って来いと言われていた。
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