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いつものように日が暮れるまで遊んでいるわけにもいかない。
補強工事に時間を費やした分、いつもより遅くなった弁当を食べ終わり、少しの間シロと遊んでいると、だんだん雲行きが怪しくなっていった。
「そろそろ帰らないか?」
航聖が空を見る。雨が降り出したら嫌だった。一応、傘は持ってきてはいたが、風が強くなると役に立たないだろうし、自転車で遠くまで帰る銀次郎はきっとずぶ濡れになってしまうに違いない。
「そうだな……」
二人ともシロのことが心配だった。家にいったんこっそり避難させることも考えたが、わずか十数日でおとなのネコほどの大きさになっており、だれにも見つからずに部屋に入れるのは少しばかり無理そうだった。運動量も木から木へジャンプするようになり、走り回ると少年たちより速くなっていた。なんとか部屋へ隠したとしてもどんなことになるかわからない。
秘密基地においておくしかなかった。
「シロ――」
しゃがみこんで、航聖はシロの目を見つめる。
「もうすぐ台風がやってくるんだ。今からあしたの朝まで、ここでじっとしてるんだよ」
いつもと違う航聖の雰囲気を感じ取ったのか、シロも不安そうな表情で鼻を鳴らした。
銀次郎は、ふかふかの毛に覆われた体をいっぱい撫でて、
「少しの間だけだから。嵐がすぎたらちゃんと来るよ」
シロはそれで少し安心したようだった。
その夕方、天気予報のとおりに台風はやって来た。降り始めた雨は徐々に激しくなってゆき、強い風と相まって家の壁をたたきはじめた。
航聖は台風ニュースを横目で見つつシロのことが心配だった。家族そろっての晩ごはんも心ここにあらずといった具合で。もちろん、いくら気になっていてもシロのことはだれにも話せなかった。なにを食べているかも味もわからず、話しかけられても上の空だった。
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