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時間が遅くなるに従って風雨は強くなり電線がびゅうびゅうと鳴った。
築二十五年の古い木造家屋である鳥野家は、昨年屋根瓦を葺き替えたばかりだった。
だからちょっとやそっとの台風ならだいじょうぶよ、と航聖の母の直美は言う。
父の勇樹ものんびりと他人事のようにテレビを見ているし、姉の理沙はいつものように、食事が終わるやいなや二階の自室へ引き込んでしまっていた。
もし避難指示とか出たらどうしよう、といつもより真剣な顔つきで台風ニュースに注意を向ける航聖に、勇樹が声をかけてきた。
「珍しいな。いつもテレビゲームばっかりしてるかと思ったら、台風ニュースを見てるなんて」
テレビでは、夜にもかかわらず屋外で強風に吹かれながらマイクを手にしたレポーターが必死の形相でなにかしゃべっていた。
「ぼくだって少しはニュースぐらい見るよ」
避難勧告が出そうな様子はなかった。山間の里である月野町に、かつて避難勧告や避難指示が発表されたことはなかった。そうそう気にするほどでもないという態度の勇樹と比べて航聖は不安げだった。
「夏休みだからっていつまでも起きてないで早く寝るのよ」
直美の小言に、航聖は「うん」と生返事。シロの姿が頭の中にちらちら浮かんで。
何度か同じことを言われて、航聖はようやく腰をあげた。
「おやすみなさい」
ゴウゴウと外が騒がしいなか、のろのろと階段を上がってゆく。
しかしベッドに入ってもなかなか寝つけなかった。
初めて経験する強い風と雨におびえてやしないか――。
頑丈に補強したとはいえ、秘密基地は壊れずにいてくれるだろうか――。
そんな心配がずっと心に渦巻いていた……。
それでもいつしか眠りにおちて、翌朝はやってきた。
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