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台風は未明に去っていった。雨はあがり、窓の外は明るい太陽が輝いていた。
最近は朝早く起きていた航聖だったが、昨夜は遅かったせいで八時をすぎてもまだ布団に入っていた。台風が運んできた夏の熱い空気が漂って、いつもより暑い朝に寝汗がひどい。
それでも電話がかかるまで寝息をたてていた。
「航聖、電話よ。野浦くんから」
母・直美の呼ぶ声でやっと目を覚ました。
ぱちりと目を開けて、
「銀ちゃん!」
がばっと上体を起こした。
あわてて階下へいくと、航聖はリビングの電話に飛びついた。
「シロの様子が心配だ。もう台風も通り過ぎたし、今から行こうぜ」
銀次郎の興奮した口調が電話口から伝わってきた。
「わかった。行こう」
航聖は即答した。言われるまでもなかった。起きるのが遅くなってしまったが、シロの様子が心配なのは航聖も同じだ。
「お母さん、早く朝ごはん!」
電話を切るなり振り返った。
「はいはい、今トーストを焼くから。今日もお弁当いるの?」
まったく、毎日毎日どこでなにをしているのかと思いつつも夏休み中ずっと家にいられるのはうっとうしくてしかたがなかった直美は、多少面倒くさいと感じながらも適当に弁当をこしらえていた。
一度、二階の自室へ着替えに戻った航聖は、リビングにとって返したときには焼き上がっていたトーストをほおばる。
「はい、お弁当」
差し出されたランチボックスを、牛乳を飲みながら受け取る航聖、
「ごちそうさま」
あわただしく朝食を終えた。
虫除けスプレーを体中にふるのももどかしく玄関を飛び出すと、銀次郎を待った。
ほどなくして自転車でかけつけた銀次郎が現れた。電話を切ってからの時間をみると、いつもより急いで来たようである。はあはあと荒い息をつき、汗がTシャツに浮き出ているのは暑さのせいだけではないだろう。
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