18人が本棚に入れています
本棚に追加
「行こう!」
ろくすっぽ休憩もせず、ペットボトルのお茶(家で作ったのを空容器に入れたもの)をがぶがぶ飲んで銀次郎はうながした。
シロのことが気になってしかたがないといった様子がありありと出ていた。
「うん、行こう」
航聖はそんな銀次郎に「少し休んだら」とも言えず、二人して月読山に作った秘密基地へと向かった。
雨に濡れた夏草が生い茂ったなかをどんどん進むと、やがて見えてきた。
はたしてどうなっているのか……。
どうか無事でいてくれと祈りながら、近づいていった。
すると――。
「シロ……!」
シロが駆けてきた。
背中の羽根を広げて二人に飛びつくと、交互に顔を舐める。
シロ、シロ、シロ!
大げさなほど喜ぶシロは、おそらく怖い思いをしたのに違いなかった。
「怖かったか? もうだいじょうぶだぞ」
航聖は雨で白い体毛がべっとりとなったのもかまわず、シロを抱きしめる。
「秘密基地はどうなった?」
銀次郎はそちらも気になっていた。
「行ってみよう」
航聖は立ち上がる。
秘密基地はすぐ近くだ。二人の少年は目印の木瓜の木立を目指して歩を進める。シロが後から、まるで飼い犬のようについてきた。
草の間から見えた秘密基地を前に、二人はしばし立ち止まった……。
秘密基地は半壊していた。あり合わせの材料での素人工事で、台風に耐えるものを作るなど、どだい無理な話であった。
しかし少年たちは落胆しない。
「よし、修理を始めようぜ」
銀次郎は前向きだった。
「うん」
返事をする航聖。
だが……。
夏休みは間もなく終わる。少年たちの幸福な毎日はどうなるのか……。次第に大きく成長していく月神獣……。
いつか終わりを告げるだろう。
言葉には出さなくともその日が遠くないことは二人とも想像できてはいたが、それがどんな形の終焉になるのか……。
そして――。
まったくもって思ってもみない現実に翻弄されることになろうとは、少年たち自身、まだ知る由もなかった。
第2章〈9月〉につづく
最初のコメントを投稿しよう!