エディアカラの馬車

３

　東光ストアの前で兄が自転車を止める。
　七階建てのデパートで母と一緒にニ度ほど来た事がある。

　兄に続いて中に入ると、そこはほとんど冷蔵庫の如く冷えていた。
　これは気持ちが良い。実際にはせいぜい２５℃くらいだったのだろうが、真夏の炎天下を走ってきた私には天国だった。
　ワンダフル、という言葉を知っていたら叫んでいただろう。

　当時一般家庭にはまだエアコンというものがほとんど無かったし、電車の車両にさえ冷房が付いていない場合が多かったのだから、この涼風だけでもデパートに入る価値は充分にある。

　一階は夏物のバーゲンで賑わっていたが、勿論私達はそんなものに興味はない。
　おばちゃんパーマをかけたご婦人方や、仲睦まじい（？）親子連れを追い越して、さっさとエレベーターに乗り込む。
　兄がすかさず七階を押した。
　ミスボウルと書いてある。
　多分ボウリングだとは思ったが、妙な名前のボウリング場である（恐らく未婚女性のMissなのだろうが、小学三年生の私はミス（失敗）ボウルだと思っていた）。