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 ミスボウルのゲームコーナーには、ピンボールが八台と車のゲームとバイクのゲームが一台づつ、それにお菓子を取れるクレーンゲームとビリヤード台が二つ置かれていた。  クレーンゲームはずっと後にUFOキャッチャーに進化して一躍メジャーなゲームになるのだが、この時はまだゲーム場の片隅に置かれた脇役に過ぎない。  またビリヤードもポケットが流行するのはもう少し後のことで、この頃はまだ四つ球が主流である。  私は一発でここが気に入ってしまった。  駄菓子屋のピンボールしか知らない私には近未来のテーマパークのように見えたのである。  何より雰囲気が良い。  白いリノリウムの床に、がんがんに冷えた広い空間。そして時折ジュークボックスから流れてくる”大人な音楽”。  勿論”大人な音楽”というのはあくまで小学三年生の感覚で、当時流れていたのはThe Shocking Blueの「Venus」あたりだったから、大人というより若者の音楽と言うべきなのだが、とにかくそこは私にとってちょっと贅沢で高級な大人の空間だったのだ。 「ちぇっ、クロンダイクやられてるよ」  兄が悔しげに呟く。  最初何のことだかわからなかったが、しばらく兄の様子を見ていて「クロンダイク」というのがゲームの名前だということに気付いた。  クロンダイク。英語で書くとKlondike。ピンボールの一つで、ヒゲを生やしたおじさんが馬から振り落とされている絵が描かれている。なんとなく西部劇っぽいのだが、牛ではなく熊が描かれているところが良くわからない。  クロンダイクをやっているのは中学生と思しき三人組で、どうやら上手いらしく、中々終わりそうもない。
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