8/10

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/66ページ
 ひとまず私達は別のピンボールをやることにした。  といっても私はほとんど兄のプレイを見ているだけだ。  私が一日に使える小遣いはせいぜい150円くらいだったし、そのうちの10円は既に先刻のチューチューアイスで消えている。  帰りにもアイスを買うとすれば、ここで使えるのは130円が限度だ。  夕方までここで遊ぶと考えるなら、これは慎重にならざるを得ない。  それでも二十分くらいが我慢の限界だった。  兄がやっている隣のピンボールの前に立ち、コイン投入口と睨み合う。  1ゲーム30円、2ゲーム50円。どう考えたって2ゲーム50円のほうが得である。  私は清水の舞台から飛び降りるつもりで(勿論この当時清水の舞台なんて知らなかったのだが)、50円玉を投入した。  すこん、すこん、と小気味良い音がして残りゲーム数が0から2に上がる。  プレイボタンを押すと、がしゃがしゃと音を立てて得点がゼロに戻り、右下の打ち出し部分に銀色の球が出てくる。  ちなみにこの頃はまだ得点表示もクレジット表示もアナログである。  私は思い切り球を打ち出した。  びんびんびん、ぼんぼんぼん、というピンボール特有の音がして球があちこちを飛び回る。  そのうち球の勢いが衰えて下に落ちてくる。  それをフリッパーで打ち返す。再びぼんぼん音がして得点が上がっていく。  面白い。  私は夢中になった。  が、そういつまでも遊び続けていられるものではない。落ちる時はあっけなく球が落ちる。  左右のフリッパーの調度真ん中に球が来た時はどうしようもない。またサイドレーンからも結構落ちる。  私はものの数分で貴重な50円分の遊戯を終えた。  1ゲーム3ボールだから2ゲームで6ボール。  1ボールあたり1分も遊んでいないことになる。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加