6人が本棚に入れています
本棚に追加
(もっとやりたい!)
半ズボンのポケットに手を突っ込んでお金を取り出す。
百円玉が6枚と五十円玉が1枚と十円玉が3枚。結構お金持ちである。
とはいえ、次のお小遣い日までまだ五日あるから考えて使わないと明日以降悲惨なことになる。
ご利用は計画的に、だ。
(ここは我慢だ……)
懸命に誘惑に耐える私。
(でもやりたい……)
目の前のフリッパーが私にウィンクをしている。
(いや駄目だ我慢だ……)
フリッパーが目に入らないように下を向く。
すると不思議なことに今まで気にならなかった音が途端に気になり出す。びんびんびん、ぼんぼんぼん。ここで耳も塞げば良かったのだが、私にはそこまでの根性は無かった。
(よし、あと50円だけやって一旦やめよう)
ついに私は2枚目の50円玉を投入し、ゲームを再開した。
今度は1ボール終わる毎に少し休憩を入れ、ちょっとでも長く持たせるよう試みる。
それでも1ゲーム3ボールが終わるのに10分掛からなかった。
2ゲーム目に突入したところで、隣でやっていた兄がプレイを終え、私の後ろに来た。
なんか嫌な感じだ。兄はこういう時、ほぼ決まって私のダメ出しをする。
「おまえヘタだなぁ」
そらきた。
頭に来るけどここは無視だ。
「両方一辺にフリッパー上げんなよ、どヘタ」
むかつく。
なんでこんなに弟に意地悪なのか。
「ちょっとは揺らせよバぁカ」
私はカッとなり、乱暴に台を揺らした。
その瞬間、台上の明かりが全て消え、フリッパーが動かなくなった。当たり前だが球はそのままむなしく下に落ちる。
私が呆然としていると兄がニヤニヤ笑い出した。
「ティルトだよ。おまえ揺らしすぎ」
確かに明かりが消えたバックグラスにTILTという文字が表示されている。
私はもうほとんど泣きそうだった。
「揺らせって言ったじゃんか!」
なんとか懸命に涙をこらえて兄を睨む。
「揺らし方がヘタなんだよ」
半べその私を見てさすがに兄がちょっと済まなそうな顔をする。
ここで少し説明しておくと「揺らし」はほぼ必須テクニックの一つと言って良い。
ただ、揺らしが一定の許容量を超えるとTILTというペナルティが有り、1ボールまたは1ゲーム(これは機種によって異なる)が無効になる。
最初のコメントを投稿しよう!