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結局この日私はそれ以上ゲームをしなかった。
ずっと不貞腐れてボウリングを眺めていたのだ。
兄はその後も何ゲームかやっていたが、時々ちらちらとこっちを見ていたところを見ると、兄なりに私のことを気にしているようではあった。
五時を少し過ぎたところで兄が私のほうへやってきた。
「帰るぞ」
私は返事をしなかった。
わざと兄から顔を背ける。
六時前に帰らないと怒られるのはわかっていたが、兄が困ればちょっとだけ気が晴れる。
「置いてくぞ?」
兄は言ったが無視した。
置いていけるものか。いつもの駄菓子屋じゃないのだ。上大岡なのだ。こんなところに弟を連れてきて、挙句の上に喧嘩して置いてきたなんてことになったら母のカミナリが落ちるのは火を見るより明らかだ。それがわからない兄じゃない。
「だぁー、しょうがねぇなぁもう。今日帰ったら色々教えてやるよ。それでいいだろ?」
兄が折れたので私もしぶしぶ頷いた。
この辺が落としどころだろう。
その夜寝る前、ピンボールの講義が行われた。兄が講師で私が生徒である。
二段ベッドの上と下なので話はしやすい。
まず第一に、フリッパーを左右同時に上げるとボールが落ちやすい(これをダブル・フリップという)からしてはいけないこと。
次に、揺らしは必要だがTILTが怖ければ慣れるまでは無理に揺らさなくても良いこと。
また大概のピンボールは縦揺れに強く(TILTになり難い)、横揺れに弱い(TILTになり易い)こと。
ミスボウルには1ゲーム10円の「ビッグレース」という台があるから慣れるまではそれで練習すれば安くあがること。
「クロンダイク」という、最初兄がやるつもりだった台が一番面白いこと。などなど。
講義は三十分ほどで終わったが私は中々寝付けなかった。
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