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甲虫の話はこれくらいにして、この辺で少し場所について触れておく。
当時私は森に住んでいた。
いや、こう書くとなんだか人里離れた森の奥で育ったように誤解されてしまいそうなので一応補足しておくと、「森」というのは町名で、つまり、住所を書くと「横浜市磯子区森」となる。
で、この横浜市磯子区森はそれほど田舎だったわけではないが、かと言ってそれほど都会だったわけでもなく、程々に自然の残った開発途上の住宅地であった。
春には小川でオタマジャクシやザリガニを追い、夏には山でクワガタやカブトムシを捕る。
横浜という比較的都心に近い場所に住みながらのどかな少年時代を送れたことは実に幸運だった。
そんな泥んこ少年だった私が何故ゲームセンターなどという如何わしい場所に行くようになったかと言うと、これは三つ上の兄の影響である。
小学校も六年生ともなると、さすがに泥だらけになって木に登ったり虫を追いかけたりはしなくなる。
夏休み最初の数日は私と遊んでくれていた兄が、一週間も経つと昼食後にはすぐ出かけていくようになった。
私は不満だった。一緒に遊んでくれなくなったことが、ではない。カブトやクワガタや桃の実を無視して出かけて行く以上、兄はそれよりもっと楽しい遊びを見つけたに違いないのだ。それを私に教えず独り占めしていることに腹が立った。
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