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 私は頬を膨らませたまま黙ってテレビに視線を戻した。  いつの間にか巨人の攻撃が終わり打席にはシピンが立っている。  後年金銭トレードで巨人に行くこのライオン丸のような助っ人ガイジンは、私と兄のお気に入りの選手だった。  ヒゲが良い。モミアゲが良い。傍若無人な態度が良い。  実際の打順は3番だったが、それは単に3番目に打っているというだけで、私の中で彼は不動の4番バッターであった。  参考までに我が家の球団支持状況を説明しておくと、父が中日ファン、私が大洋ファン、兄がアンチ巨人、母と祖父母は興味なし。  ということで、テレビ中継がほぼ巨人戦のみだったこの頃は、少なくとも応援チームを巡って喧嘩が勃発することは無かった。  どのみち巨人じゃない方を皆が応援するのだ。  念のために書いておくと、当時は巨人V9の真っ最中で、一家揃って巨人嫌いという家はちょっと珍しかったのではないかと思う。  自分で言うのもなんだが、私はあまり素直な子供ではなかった。  巨人より大洋が好き。長島よりシピンが好き。大鵬より北の富士が好き。  どう考えたって捻くれている。  シピンが左中間に二塁打を放ち松原が打席に立った時には、私の心はもう決まっていた。  明日は何がなんでも兄に付いて行く。駄目だと言ったってきくもんか。
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