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「どこまで行くのさ?」  呼吸を整えながら聞いた。  蝉は相変わらずじーじーみんみんとうるさく騒ぐ。 「上大岡」  兄の黄色いシャツが汗で濡れてところどころ黄土色になっている。 「上大岡かよ……」  私の一張羅と言っても良いBVDの青いTシャツも、首周りはすっかり紺色に染まっていた。  上大岡は隣駅である。  京浜急行で三分、徒歩で三十分。  特急も止まる大きな駅で、我等が磯子区森よりは大分都会な街である。  坂を上り切り、磯子工業高校へと続く左折路を過ぎたところで私は荷台の上に飛び乗った。  ここから打越の交差点までは一気の下りだ。  兄がペダルを踏むと、自転車は鎖から解き放たれた犬のように勢い良く走り出した。  家屋や並木があっという間に後方に飛んでいく。  風があまりにも心地よく、思わず声を出したくなった。  打越を右折し笹下釜利谷道路に入ると道は平坦になり、ところどころに畑が見え始めた。  今はもうほとんど見なくなったが、この頃はまだ横浜にも田んぼや畑が結構残っていたのだ。  
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