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川藤達はその印をただぼーっと眺めただけで、その後はフラフラとその場から立ち去り、現場の方へと戻って行った。彼等の背中が寂しそうに見えたのは俺だけではない筈だ。
「楽しみにしていたんです」
と柴田が言った。20年前、彼等はこの場所で誓った。再びここに集まって思い出を分かち合おうと。だが殆どの生徒がその約束を反故にし、集まったのは指で数えられる程度の人数のみ。更に1人は殺害されてしまった。20年前の子供達の夢が砕かれてしまった。
柴田も悲しそうな目で矢印を見つめている。様子を窺っていると、彼女がこの印を掘ったのだと教えてくれた。
「忘れても、ちゃんと掘り起こせるようにって。……あら、ごめんなさい。お邪魔でしたわね」
「いえ、とんでもない」
「溝口君のこと、よろしくお願いします」
そう言って、柴田もまた生徒達の方へ向かって行った。彼等の思いのためにも、何としても犯人を捕まえなければ。
だがここで疑問が出て来た。タイムカプセルの目印については同窓生全員が知っていたことらしい。となればタイムカプセルの在りかも矢印を探せば簡単に特定出来た筈。しかし溝口は違う場所を掘り起こそうとしていた。単に矢印のことを忘れていただけなのだろうか。
考えてみれば、他のクラスメイト達よりも先にカプセルを掘り起こそうというのもどうかしている。いくらドッキリ好きだったとは言えそれはやり過ぎだ。少年時代は誰かを脅かすときもそれなりにルールやマナーを守っていたと言うから、この点もまた不可解だ。
レコーダーのスイッチを入れっぱなしにしていたことに気がつき、俺は慌ててスイッチを切った。
遺留品、凶器、被害者と現場の写真、録音した証言。レコーダーのボタンを押したとき、これらの資料が息をし始めたのを、俺は本能的に悟った。
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