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次の日、いつものように仕事をしていたら唐突に、山田くんが声をかけてきた。
「会長から今、呼び出されました。そろそろ覚悟を決めましょうよ、今川部長。俺も限界なんです」
突然すぎて、心臓がバクバクする。
「だがな山田くん、俺はまだ心の準備が――」
うろたえる俺に山田くんが逃げないよう、腕をがっちりホールド。
「朝比奈さんの事、好きなんでしょ。彼女のために、頑張れないんですか?」
他の人から蓮の事を口に出されると、改めて自分の気持ちを晒されてるようで、顔がぶわっと赤くなってしまった。
「ここはいっちょ格好いいトコ見せて、会長に認めてもらわなきゃですね」
山田くんはまた無理矢理笑顔を作って、俺を励ましてくれる。
――彼には、ムダに苦労させているな。
そう思いながら、重い腰をゆっくりとあげた。
「おや? わざわざ今川部長が、山田くんを連れてくるとは」
会長はとてもにこやかに、俺達を招き入れてくれた。そのにこやかな対応が、逆に緊張へと繋がる。この後告げられるであろう、罵倒の言葉の数々――それを想像するだけで恐ろしい……
「山田くん、蓮とはどうかね?」
会長は、山田くんに向かって話しかけた。俺はゴクリと唾を飲む。
――いよいよだ!
「お話のところ、申し訳ありません。その件で会長に、私からお話があります」
山田くんの前に出て、颯爽と話を切り出した。すぅっと、息を大きく吸い込む。
「何だね、改まって?」
「実は蓮さんとお付き合いしているのは、私なんです」
会長の顔色が一気に、怒りの表情へと変わった。
「なっ……冗談を言ってるのかね?」
冗談にしか聞こえない話だが、付き合ってるのは事実。
――俺達は、愛し合っているのだから。
「蓮さんのご両親亡き後、会長が手塩にかけて大切に育て上げたのは、承知しています。その大事な蓮さんを、私のような――」
「冗談も、休み休み言いたまえ! 貴様のような男に、蓮はやれん!」
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