……その魔王と戦った時、ワタシは23歳だった。

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「いよっしゃあ!」  なんて叫んだりしてね。  城の中ってね、よく声が響くの。ワタシのビューティーヴォイスがこだまして凄く気持ちいい。まるで城全体がコンサートホールになったみたいで、ワタシの「いよっしゃあ!」っていう声でいっぱいになるの。あれは本当に気持ちよかっ――迂闊?  おっしゃる通り、すぐに衛兵に見つかって捕まりましたよ。 「ちょっ、なに」  ワタシが言えたのはそこまで。大きくて汗臭い手に口を塞がれて、もう片方の手がワタシを抑えた。巻き付くみたいにしてね。羽交い絞めっていうのかしら。後ろにいたからどんな顔かわからなかったけど、どうせ不細工だったでしょうね。  ……話してても思い出すんだけど、嫌な臭いだったわ。何日もうがいをしてないような口臭と、発行したような汗の臭いと、公共の場で声に出したら駄目な体液の臭い。たまらなく嫌だった。 「なんだ、どうした」  それから別の男の声がしたわ。ワタシの声って綺麗だから、本当によく響いたみたい。新しく出てきたそいつは魔獣みたいに大きくて毛深い奴だった。 「侵入者だ」  野太くて低くて臭い声が後ろからしたわ。何もかも嫌で嫌で仕方なかったけど、振りほどけなかった。どれだけもがいても無理やり押さえつけられるし、どんなに叫んでも「むー! むー!」って家畜みたいな声しか出せなかった。 「勇者か。それなら早くインヴェンションさまに報告して――」 「待てよ」  そう言ってから、ワタシを捕まえていた男は一瞬間を置いたわ。きっと下衆みたいな笑顔をしてたんでしょうね。次に口を開いてできたのは、ただの一言、 「女だぜ?」って、それだけ。  ……ヘリーディルの公用語がこの国と一緒で本当に良かった、って思ったわ。もしも全く意味の分からない言語で喋られてたら、自爆なんてできなかったと思うから。  もがくのをやめて、ベルトに差してた「特別な爆弾」を抜いたわ。どうなるかって? すぐに「どかん」よ。もっとすごいかな。「どがばあずごびしゃああん!」くらいかしらね。
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