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「いやああああああ!」
そこは薄暗くて、均等に並べられた蝋燭だけがあたりを照らす魔王の城。そこに響いたのは、か弱く儚く美しい歌手顔負けのソプラノビューティーヴォイス。たとえるならば竪琴か小鳥か。……なに? もったいぶらずに話せ? せっかちねえ。とにかく可愛らしい声が響いたのよ。
何を隠そう、そのか弱く儚く美しい歌手顔負けのソプラノビューティーヴォイスを発したのはワタシで、――文句でもあるの? それならもうやめ。明日の朝のミルクを買いに行かなきゃいけないから……そう、静かに聞いてくれるのね。じゃあ再開しましょうか。
で、そのワタシは鎖にぐるぐる巻きにされて逆さ吊りにされていたわ。
「やめて、おねがいやめて! 何でも、何でもするからぁ!」
涙ながらに懇願しても状況は変わらなかった。ワタシの目の前ではさかさまの老人がにこにこと笑顔を見せていて、頭上には――もといワタシの下にはぐつぐつと煮えたぎる緑色の液体が大きなツボの中で私においでおいでしてたわ。
……ほんとに手招きしてるように見えたんだから仕方ないでしょ!? 話せって言ったからには黙って聞いてほしいんですけど? ……そう、分かればよろしい。
「そうかそうか、やめてほしいのか」
その声の主はさかさまに映る笑顔の老人で、声だけ聴けば優しそうな感じ。牧場のお店のヤーパじいちゃんみたいな感じね。でも、その声の中にはどす黒い悪意が蠢いていた。
と言うのもそいつが城の主、魔王だったのよ。ローブを頭からすっぽり被ってて、顔は全然分からなかった。声で老人だと分かるくらい。そのローブは悪意を隠す法衣っていう感じかな。真っ黒で「いかにも」って感じの服だったわ。
「では下ろしてあげようか。おい、勇者を下ろすのだ、ゆっくりとな」
魔王がそういうと「がくん」って私の視界が大きく下がった――かと思うと止まって、それからまたゆっくりと下りていく。鎖が「ココココ」って音を立てて――ああそうね。「ギギギギ」の方が正しいわね。……いや、音はどうでもいいの。ワタシの身体はゆっくり、ゆっくりと、緑色の液体に近づけられていったわ。
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