……その魔王と戦った時、ワタシは23歳だった。

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「ちょっと、いや、やめて」  か弱く美しく儚い歌手顔負けのソプラノビューティーヴォイスは震えたわ。誰だってそうなるでしょう? あんただってそう。死ぬかもしれないって場面になると、声が震えるのよ。 「やめてって言ってるでしょ!?」  ワタシは叫んで爆弾を投げようとしたわ。そうしたら魔王のやつえらく焦ってね。 「や、やめろ!」  その一言しか言えなかった、って感じ? いざ私が手を放そうとしたら魔王のやつ懐から何か取り出してね、凄い速さでそれをワタシに向けたの。「パン」って音がしたかと思うと、ワタシの爆弾は床に転げ落ちてた。着火も出来なかったからもちろん爆発もしない。  それを見てすぐに「ふう」って魔王は溜め息を吐いたわ。ほんと、ヤーパじいちゃんみたいにね。ああやれやれ一安心、って。 「さて、やんちゃな勇者にはお仕置きが必要なようだ」  ……今思い出しても、口調は本当にヤーパンじいちゃんそっくりなの。だけど中身は違うわ。じいちゃんとは反対に、魔王はすごく残酷。すぐにわかるわよ。勇者の勘って奴でね。 「あなたの下にある液体はこの私、魔王『インヴェンション』が作り出した液体生命。どうですかこの輝き。見たことないような美しさでしょう」  魔王は、インヴェンションは突然そんな事を言い出してね。まるで宝石でもワタシに売りつけようって口調だった。 「こいつはね、この壺を除く、ありとあらゆるモノを溶かして自らの栄養にするんですよ。知能が低くて複雑な動きが出来ないのが玉に瑕ですがね――どうです、勇者さん。身をもって体験してみては」 「……いや、いやよ。死にたくない」  ――なさけない? じゃああんたも同じ目にあってきてほしいんですけど? 「そう仰らず」  とにかく、「インヴェンション」とやらは「ぱちん」と指を鳴らしたの。するとワタシの身体はまっさかさまにツボの中に落ちていった。痛みはない。何重にも重ねた羽毛布団に飛び込んだような、そんな感覚だった。……その時はちょっと拍子抜けしたわね。
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