「切なさ」の味

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「いや、別にわざとじゃないんだけどさ。紅花、森山先輩の話しかしないから、何となく話しかけ辛くて……」 「えっ、そうだった?」 「そうだよ。自覚ないのかよ」 「……」 「まあいいけど。でも、本当に大丈夫か?もしかして、先輩と何かあったんじゃ……」 「!」  鋭い。 「えっと……」  言葉を探すあたしを見て、きっと尊は気付いただろう。  尊の目がちょっとだけ動いて、その眉毛が一瞬上に上がったから。  でも、尊はあたしに何も言わない。  「やっぱりね」なんて言ったら、あたしがすぐにムキになるのを知っているから。 「次!男子計るぞ!おーい茎本!ぼさっとするな!位置に付け!」 「はーい!」  尊は先生に向かって叫ぶと、もう一度あたしを見て、言った。 「何かあったら、いつでも俺に言えよ?」  尊はあたしの肩をぽんと触れるくらいにして叩くと、スタートラインへと走って行った。  どうして分かるんだろう。  やっぱり、だてに十数年間あたしの幼なじみをやっている訳じゃないみたい。  ……それとも、あたしがただ単に分かりやすいだけかな。  もしかすると春菜があんなに怒ってたのも、先輩の姿を見たことより、あたしが元気なさそうにしてたからなのかもしれない。  駄目だな、あたし。  心が表面に現れて、大事な友達を心配させるようじゃ。  心を落ち着かせるために深呼吸している内に、また順番が回って来て、あたしはスタートラインへ立った。
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