33人が本棚に入れています
本棚に追加
「いや、別にわざとじゃないんだけどさ。紅花、森山先輩の話しかしないから、何となく話しかけ辛くて……」
「えっ、そうだった?」
「そうだよ。自覚ないのかよ」
「……」
「まあいいけど。でも、本当に大丈夫か?もしかして、先輩と何かあったんじゃ……」
「!」
鋭い。
「えっと……」
言葉を探すあたしを見て、きっと尊は気付いただろう。
尊の目がちょっとだけ動いて、その眉毛が一瞬上に上がったから。
でも、尊はあたしに何も言わない。
「やっぱりね」なんて言ったら、あたしがすぐにムキになるのを知っているから。
「次!男子計るぞ!おーい茎本!ぼさっとするな!位置に付け!」
「はーい!」
尊は先生に向かって叫ぶと、もう一度あたしを見て、言った。
「何かあったら、いつでも俺に言えよ?」
尊はあたしの肩をぽんと触れるくらいにして叩くと、スタートラインへと走って行った。
どうして分かるんだろう。
やっぱり、だてに十数年間あたしの幼なじみをやっている訳じゃないみたい。
……それとも、あたしがただ単に分かりやすいだけかな。
もしかすると春菜があんなに怒ってたのも、先輩の姿を見たことより、あたしが元気なさそうにしてたからなのかもしれない。
駄目だな、あたし。
心が表面に現れて、大事な友達を心配させるようじゃ。
心を落ち着かせるために深呼吸している内に、また順番が回って来て、あたしはスタートラインへ立った。
最初のコメントを投稿しよう!