「切なさ」の味

2/37
33人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
 繋いだ手から伝わる温もりは、相変わらずあたしの鼓動を速める。  少し垂れた目は楽しげと言うよりは気だるそうに見えるけど、それがあたしを見ると、優しく細められる事はもう知っている。  ただ、あたしを見るその瞳の向こうで何を考えているのか、あたしはまだ知らない。  湿気を帯びた風が目の上にかかる髪をふわりと揺らした。  あたしの頬がさっと熱くなる。  前を向いて歩いていた先輩は、視線に気付いたようで、ふいにあたしの方を見た。 「暑いね」  って、ちょっと笑いながら。  あたしは慌てて目線を逸らす。 「うん……」  俯いたまま返事をする。  きっと真っ赤になっているだろう顔を見られるのは、なんだか恥ずかしかったから。  あたしはしばらく時間を開けてからもう一度、気付かれないようにそっと先輩の横顔を見た。  あ、雲だ。  と、ふとあたしは思った。  青空にぽっかり浮かぶ、白い小さな雲。  先輩を見つめるあたしが見つけたのは、先輩の頭のずっと向こうに見える雲だった。  充紀先輩は、雲みたいな人だ。  捕まえたと思ったらするりと逃げて、見つけたと思ったら形を変える――。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!