「切なさ」の味

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 あたし自身、何度か女の子と一緒の先輩を見かけた。  先輩すらあたしと二人きりでいる時も、 『ああ、ここ、前に果奈と来た所だ』  なんて、ぽつりと漏らす事もあった。  あの時の感情をショックと表すほどには、あたしは衝撃を受けていなかった。  あたしの心に浮かんだのは、ただあの違和感だった。  それでも何も言わなかったのは、先輩が相変わらず優しかったから。  あたしと一緒にいる間。  その間は、先輩はあたしだけを見て、あたしのものでいてくれるなら。  ただそれだけで、あたしは満たされる。 ……きっと、そう思い込んでいたんだ。  いや、そう思いたかっただけだ。  でも、鬱屈した気持ちはあたしの意志とは関係なく、少しずつ、少しずつ積み重なっていって、ついには耐えられないくらいに肥大していた。  先輩の考えている事が分からない……。
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