「切なさ」の味

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 ふいに名前を呼ばれて振り返る。  あたしの走る様子を脇で見ていた尊が、あたしに近付いてくる所だった。 「……大丈夫か?」 「何が?」 「最近、元気ないみたいだから」  尊の目は本当に心配そうな色を浮かべている。 「何よ、最近あたしに話しかけてこなかったくせに。薄情者」  あたしはその色に気付いていながら、わざとつっけんどんに返事をした。  なぜって、最近尊があたしにちょっとだけよそよそしい。  充紀先輩と付き合い始めた頃からだろうか。  面と向かって話している時はそんなに感じないんだけど、何となく、少し距離を置こうとしているような……。  例えばあたしが話しかけた時。 『もう、数学訳分かんない!テストとかもうヤダ!早く走りたい!ね、尊』 『うん、そうだね……』 『……うん』  なんか妙に、噛み合わない。  いつもだったら、尊はあたしに笑いながら、 『紅花は本当勉強できないからな。蒼に教えてもらえよ』  とかそんな事言ったり、冗談言いあったり、……ぽんぽん会話が繋がってたのに。  今まで10数年間幼なじみをやってきたけど、こんな事は初めてだった。  それが少し寂しくもあったけど、幼なじみっていっても、男子と女子だし、ずっと仲良しっていう訳にはいかないよね……。  あたしはそう思っていた。
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