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もちろん、それが全て本当というわけではないし、噂ということもあるけれど、お兄さんはまったく否定しないどころか、楽しそうにゲラゲラと笑ったらしい。
もしもお兄さんがわかりやすい、喧嘩っ早い子供というのなら大人達にだって対処できただろうが、お兄さんの行為には大人達ですら辟易してしまったらしい。
「じゃ、じゃあ、その頬の傷も?」
「ん? ああ、うん。これね。そう兄貴のせいだよ」
と、彼は苦笑いしながら言った。これは前々からあったらしい、彼の兄貴は衝動的に豹変することがあって弟の彼はよくそのターゲットになることが多かったらしい。彼は自分のお兄さんのことを、
「まるで、獣ようだった。目が血走ってて、目に写るもの全てを壊したいと思っていそうで」
彼は自分の首を両手を添えて、
「こう締めてくるんだよ。殺してやるって感じで、それにこれも」
と、彼は太ももにある傷跡を見せて、
「太ももにさ、ボールペンでグサリだよ。さすがにヤバかったね。母親もさ、こうなったらマズいからって兄貴を叱りつけたんだよ。もう、これでもかってくらい殴りつけてさ、俺の顔を見せながらこう言うんだよ」
顔を指さして、
「これはお前が傷つけたものだって、何度も何度も繰り返し、繰り返し、繰り返しもう数え切れないくらいに教え込んだんだよ。そしたらさ、兄貴、壊れちゃった」
つきあわされる俺も、見ていてつらかったと彼は言った。お兄さんのあの姿を思い返す、確かにあの姿はどこか壊れた人に見えなくもない。お兄さんの行為には賛同はできないけれど、それと同じくらい淡々と話すお前も怖いよとは言えなかった。
「いや、もともとから壊れていたのかもしれないね。兄貴はそういう人で、皮を被って生きていて、周りの人に気がつかれないように生きていた人だった」
もっと器用な人だったら、上手くできたかもしないのに、兄貴は不器用だからなぁと笑った。えくぼができていた。その笑みが気さくだと思ったが、今は不気味な仮面しか見えない。彼の内面ももしかしたらスタボロに壊れてしまってるかもしれない。それが見えないというだけで、わからないというだけで心の内面なんてどうなっているかなんてわかりこっこないんだ。
お兄さんには世界というか、世間というやつはどんなふうに見えているんだろう? どうして、お兄さんは生き物ばかり殺そうとして、殺すのだろう。理解はしたくはなかったし、
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