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同情もできなかった。
「だからさ、兄貴を見かけても無視してくれていいから、あの人、基本的に話しかけてくることないし、無視してくれよ」
頼むからと、頼み込むように彼は言って帰っていった。正直、頼まれたって関わりたくなんかなかったし、無視するつもりだったから問題ないけれど、初めて出会ったというか、すれ違った瞬間を思い返してみると、お兄さんはどこか怯えているようなという解釈もできた。
お兄さんは人が怖いんじゃないかって、
だから、人に嫌われて、避けられる格好をするし、他人に関わりたくないと思わせることをする。そうすることで自分だけの世界を守っているんだと、僕はいい加減な解釈して、お兄さんとは関わることはかったんだけれど。
その後、お兄さんは唯一の友達と呼べる人に怪我を負わせたらしい。背中に深々と傷跡が残るようなひっかき傷を負わせたらしい。
ただ、その事件の不可解なところは、その周囲に凶器らしきものはなくて、お兄さんの片手はじゅっくりと血で濡れていたそうだ。つまりは、お兄さんは素手で友達に深々とした傷跡を残したことになるんだけれど、その頃には僕は転校が決まっていて、そのことは人づてにしか聞いていないからよくわからない。その後のお兄さんと、彼がどうなったかも。
『兄貴は獣みたいだった』
と、お兄さんの弟の言葉が今でも、脳裏に蘇る。お兄さんはいったい何者だったのだろう? 正直、今もわからない。
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