失望する脇役と希望する主人公

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② 「坊っちゃま、お目覚めの時間でございます」 「……もうそんな時間か。ありがとうセバス。下がって良いよ」 セバスと呼ばれる初老の執事のモーニングコールで少年は目覚めた。 ゆうに三人は寝れるであろう巨大なベッド。しかし四十畳を越える彼の部屋にはちょうど良いサイズなのかもしれない。 部屋に置かれたイタリア製の家具たちが気品のよさを醸し出す。 少年の名は天童・アーデルノート・翔。世界的有名建築家の父、天童誠とセレブ御用達のファッションブランド【ジュエル】の社長兼デザイナーである母、メイル・ジュエリー。 そんな二人を両親にもつ彼はまさしくセレブ中のセレブである。 イタリア人の母の血を受け継いだ金色の髪と美しい青い瞳。実直な日本人の父の影響もあり仕事に対して真摯な性格。 スラッと伸びた手足。百八十五センチの長身。 成績優秀、容姿端麗、運動神経抜群。 非の打ち所がない完璧超人である。 現在は庶民の生活を知ることも大切であるという両親の意向により地道と同じ学校に通っている。 翔が学校に行く準備を完了した頃、まるでそのタイミングを知っていたかのように、先程の執事とシェフ姿の男が朝の食事を運んできた。 「坊っちゃま。朝食について料理長からの説明がございます」 これも翔にとっては日常的なことである。もちろんほとんどのことは聞いていないのだが、それは料理長の仕事なので翔はそれを拒むことはしない。 料理長がつらつらと料理の説明をしている間、翔は聞いているふりをしてあることに思いを馳せていた。
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