第1章

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(大体、俺は相川さんに告白して、その後どうしたいんだ? 相川さんに、どうしてほしいんだ?)  教室まで残り50メートルも無いところまで来て、今更難しいことを考え始める。難しく考えて、自分に都合が悪いように言い訳して、「今回は仕方ないか」などと言って高校生活におけるチャンスをことごとく見送ってきた。中学生の頃もそうだった気がするし、これからの人生もそうかもしれない。  しかし、無駄にしてきた三年間で学んだことが、拓斗にはただ一つだけ有る。 (自分に言い訳して見送ったことの大半は、見送ってから死ぬほど後悔する) 「相川さん」  最後の角を曲がり、見慣れた教室が視界に入った時にようやく拓斗は振り返り、友達と共にすぐ近くを歩いていた沙紀を呼んだ。沙紀はすぐに気づき、拓斗の隣を歩く。 「何?」 (これがその『大半』に入るってことぐらいは、馬鹿な俺でも流石に分かる) 「もう最後だし、言っておきたい事が有るんだけど」 「うん?」  覚悟を決めるのが遅すぎたので、伝える前に教室に着いてしまう。入り口から少し離れたところで拓斗が立ち止まると、沙紀もまた立ち止まってくれた。話はちゃんと聴いてくれるらしい。友達と話していた時の笑顔をそのまま拓斗に向けている沙紀に向けて、拓斗は言葉を紡ぐ。 「もう会うことも無いだろうから言っておきたいんだけど、俺はあなたのことが好きだったんだと思う」 「え」  沙紀が笑顔のまま固まるのが分かった。何とも思っていなかった男からいきなり好きだったと言われれば当然そうなるだろう。しかし、今の拓斗に相手を気遣うだけの余裕はない。ずっと言い出せなかったことを口から出してしまったのだ、もう引き返すことは出来ない。 「何を望むでも、何を願うでも無くて、ただ伝えておきたくて。ありがとうございました」  拓斗は深々と礼をする。沙紀が何か言った気がするが、聞き取れなかったし、聞かなくてよかった気もする。それに、わざわざ訊き返すのは野暮だろう。  行きましょう、と拓斗が手のひらを教室に向けて沙紀を促す。それに従うように沙紀が教室に入り、その後から拓斗も教室に入る。
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