失恋、しました

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最寄駅まででいいという申し出は即答で断られ、大人しく自宅まで送ってもらうことにした。 「いい車だね」 大滝君の車は、黒のワンボックス。 もちろん国産車。 大滝君と同じ柑橘系の香りがする。 「そうですか?ランボルギーニに比べたら全然ですよ。  俺も一度は乗ってみたいですね」 「………あぁ、あれねぇ。  私はあの車は苦手だなぁ。みんなジロジロ見てくるし」 「男だったら確実に見ますよ。  持ち主どんな人だろうって、中に乗ってる人まで」 「………だよね。  でも私は、こっちのほうが好きだなぁ」 広いし、人がたくさん乗れるし。 私は視線を窓の外に映したので、横で大滝君がポッと赤くなっていることには気付かなかった。 「もうこの辺でいいよ」 「いえ、自宅まで送ります」 このやり取りを数回繰り返し、けっきょくうちのアパートの真ん前まで送ってもらった。 「助かりました。ありがとうございました」 感謝を込めて頭を下げて大滝君を見ると、少し不機嫌な顔をしていた。 「こういうときって、お礼にうちでお茶でも……とか言うものじゃないですか?」 それ、言われる側が言う台詞でもないよね? 「私、そんな女子力持ち合わせてないもん」 「じゃあ、このまま食事にでも行きませんか?」 食事と言われて思い出したのは、昨日の大量に作ってしまったカレー。 あ、そうだ。 「ねぇ、大滝君。  良かったらうちでお茶と食事と………」 いいこと思いついた。 「それから別なことしていかない?」 大滝君は目を輝かせて大きく頷いた。
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